TELEPHONE
第122回『番外編 見知らぬ男から夜更けに電話
8月もそろそろ終わり。宿題のラストスパート、または焦って今からスタートしている学生の皆さん、泣かないで頑張ってください。社会人の皆さんは、のんびりと夏の終わりを楽しみましょう。
ずっと真面目に電話での英会話の講義を続けてきましたので、このへんでちょっと脱線を。今回は、先週に引き続き「電話での勘違い」についてお話しします。

アメリカの大学に留学したての頃、実は私も電話でちょっとした失敗をしました。9月に始まった初めての学期をなんとか乗り越え、さっさと卒業するためにWinterim(冬休み中に開かれる短期集中講義)で単位を稼ごうと鼻息を荒くしていた私は、頭の中はクリスマス一色でウキウキと実家へ帰っていく学生達を横目に見ながら、寮に居座っていました。
私がいたNew Hampshire州は極寒の地。あの頃も一帯は雪に閉ざされ、7階建ての寮にいる学生は私を含めてたった3人という有様。キャンパス内にあった幾つかの寮は、どれも似たような状況でした。なんたって、Winterimは新年早々1月2日の朝から講義が始まるのです。日本の予備校生じゃあるまいし、ドカドカ降る雪の中、そんな寂しい新年を好んで迎えたい学生は「優秀」というより「酔狂」という言葉が似合いそうな感じです。

そんな寂しいキャンパスで、灯りもまばらでやたらに雪が眩しい夜、一人っきりの寮の部屋に、一本の電話がかかってきたのです。私がHello.(もしもし)と出ると、Thank God you're there.(ああ、いてくれて良かった)と、かすれぎみな男性の声。Who's this?(誰?)と聞く私を遮り、Oh, God.と息を切らしています。なんだか切羽詰まった様子なので、Are you OK?(大丈夫?)と聞くと、彼は、Yeah. Yeah. Actually... could you help me?(ああ、大丈夫だけど…助けてもらえるだろうか)と言います。人気のないキャンパスで、何か事件があったのやもしれません。Sure.(もちろん)と身を乗り出す私。すると彼は私に頼んできました。Could you take off your clothes?と。
…。…。…。
私の英語回線に一瞬の沈黙。まばたきを2,3度。え?ナニ?私に脱げと?しかしながら、いかんせんまだ英語に自信がなく、ご丁寧にT-take off my clothes?(ぬ、脱ぐの?)と聞き返した私です。すると彼はハアハアしながら、Yeah. Will you?(ああ、そうしてもらえる?)とぬけぬけと言うではないですか。
help meって、「助けて」じゃなくて「手伝って」だったの?「どアホぉー。ふざけるなー!」と私の日本語アタマは叫んでいるのですが、英語アタマは為す術がありません。ようやくのこと、No, I can't!!と言うと、だぁれもいない寮で、真っ赤な顔をした私は電話を叩き切ったのでした。ダマされたのはともかく、最後にYou, pervert!(このヘンタイ!)くらい言ってやれば良かったのに、生真面目にNo. I can't.ですって。もう、やだやだ。私は、どこまでいっても文法に忠実な日本人学生の鏡でした。

日本だったら、電話に出た時点ですぐに気が付いたでしょう。でも、「英語で電話」というシチュエーションにまだ慣れていなかった私は、英語でまともに受け答えをすることにばかり気を取られていたのです。アメリカにだってヘンタイはいます。ゴロゴロしてます。それは当たり前です。でも、それは私の頭からすっかり抜け落ちていたのです。
こんな私の間抜けな話から強引にも教訓を引き出すとすると、こうやって“日本語ならだまされないのに、英語だとコロッとやられてしまう”のって、誰にでも起こり得るということ。英語は手段ですからね。話している本人、話の中身が重要です。くれぐれも気を付けましょう。

さて、来週は、間違い電話に関するフレーズをご紹介します。お楽しみに。


Hello.
Hi. Are you alone?
Who's this?
Oh, I like your voice.
Excuse me.(hang up)

もしもし。
やあ、1人?
誰?
ああ、素敵な声だねえ。
失礼します。(切る)